ギターネック購入のメモ

これは何?

  • ギターのリプレイスメントパーツとして手に入れたネックに関して、私がオーダーしたり購入した時のメモを記載しています。
    • 忘備録、兼、布教用
  • 筆者は特に利害関係が無く、取材ではなくWeb上で入手できる情報や、現物を基に書いているため、記載内容について古かったり、私見による誤解・誤訳を含む可能性があることをご了承ください。
    • Please contact me if you want to delete any content in this article.

初めて海外製ギターネックを購入する時に気をつける箇所

2年前の自分に伝えたかったこと。Fender純正交換用ネックや、Warmoth,MightyMite等Fenderライセンスネックであればある程度ポン付けでハマるケースも多いのですが、原則として買う前にいくつか注意しておく点があります。

  • フレットすり合わせ、ナットインストール、タッチアップやリシェイプ、塗装を行う覚悟があるか
    • お店に並ぶ新品ギターの様な綺麗なネックが届くとは限らないことを理解する。また、適宜好みになるようにネックグリップを成形したり、組み付けるボディと合う様にセンター出しのためのヒールの細かな成形は工程として入ってくると考える。
  • ネックヒールのサイズは「2 3/16インチ」かどうか
    • これが55.56(55.6)mmの「Fenderスタイル」と呼ばれるネックヒール幅の基準。Fender系のボディの場合、これより狭くなることはまず無いが、Fender USAのボディでも平気で56mmを超えてくる場合や、他ブランドは現物合わせなので、実測値として55.6mm以下で記載されているネックや、異型(2 1/4インチ等)個体もあるので注意。
  • ネックエンドはオリジナルと近い位置で切られているか
    • 安いノーブランド海外製ネックの場合は要チェック。必要以上にネックが長かったり、その逆もあるので写真掲載されている場合はヒールの位置が正しい所にあるか確認する
  • グリップからヒールにかけてのシェイプが正しく整形されているか
    • 安いノーブランド(略)。変なのを買うと整形の手間が増えます。
  • ネックヒールの厚み(Thickness)は1インチ確保されているか
    • 上記点も含めてFenderスタイルを無視した適当なネックもあるので、Warmothのネックプロファイルの説明などを確認した上で取り掛かる必要があります。原則は現物合わせなので、組み合わせるボディのネックポケットを確認すると良い
  • フレットはある程度高さのあるものが良い
    • バシっと真っ直ぐに決まったネックが届くのは本当に良いネックだけで、原則組付けに際してフレットのすり合わせが必要になります。ある程度削り代がある方が保険になる。

未塗装ネックを解決するXotic Oil Gelについて

「Xotic Oil Gel ネック」等で検索すれば先人の、あるいはプロの手によるネックの塗装手順が載っているが、私見としてのTipsをここにも書いておく

  • Xotic Oil Gel1本(60ml)でネック4-5本は濡れる
    • 別途紙やすりが必要なものの、実費としては1本あたり数百円でオイルフィニッシュ出来るので挑戦する価値はある
  • 「塗膜が出来る」が、ラッカーともウレタンとも違った感触で、薄く、硬度も低い
    • 木材に染み込んで固まる様な感じ、かつウレタンほど硬くならないので、触った感触としては木の繊維の凹凸がやや感じられるような仕上がりになる(目止めは普通に重ね塗りすれば気にする必要は無さそう)
  • グロスフィニッシュは難しい
    • 厚塗りして#3000のポリッシュで仕上げたところ、感覚として以下の課題が見えた
      • 塗膜としては薄いので、綺麗な鏡面にならない(どこまで綺麗に仕上げても凹凸が出てくる)
      • 厚塗りをするとグリップが手に引っかかる感触があり、なおかつ不快
        • ポリやラッカーのグロスフィニッシュはパキっとしたりサラっとしたりするが、オイルで仕上げているからか、どこまで乾燥させても手に引っ付くような感触が残る
  • 塗装が終わるまで最低1週間は見ておく
    • 重ね塗りする場合、超薄塗りの場合は2~4時間で次の塗りを行えるが、ハケや指で塗った場合は24時間くらい空けてからサンディングしないと、消しカスのように塗料が剥がれる(奥まで乾燥しない)。その工程を何回繰り返すかという事を考えても、時間に余裕見たほうが良い
  • 何故か日本でしか本製品が流通していないことに注意する
    • モノとしてポリやラッカー、その他伝統的なオイルフィニッシュより優れているのであれば楽器生産国の本場で流行っていてもおかしくないのに何故?という疑問を持つ
    • 個人的な所見でしかないが、薄塗りを重ねるという都合上時間的なコストがかなり掛かり、なおかつ仕上げの難しさもあるので良し悪し含めて評価する必要がある。

おすすめの塗り方(極薄重ね塗りサテン風仕上げ)

  • ペグホールにS字フックをかけて部屋で乾燥させる体制を整える(適度に乾燥させていれば、部屋が臭くなることはない)
  • ネック全体を400->600->800->水引き->400->600->800->1000番までサンディングして、未塗装状態でもサラサラになるようにする
    • 水引きはXotic Oil Gelの超薄塗りで行っても良い(2回くらいOil Gelで塗ってからまたサンディングをやり直すと、いい感じにケバが消える)
  • 最初はとても薄い量で全体に伸ばして、木にオイルをなじませる(2-3回やる)
    • 初回から厚塗りをすると必要以上に木材にオイルが浸透してしまい、鳴りが悪くなります。
  • キッチンペーパーを使っても良い
    • ウェス(古布)でもいいですが、やや固めのキッチンペーパーでも十分塗れる気がします。
  • 塗った塗料がサラっとするレベルで薄く塗り伸ばすように重ね塗りを繰り返す
    • 厚塗りだと中の塗料が乾ききらない内に次の塗りを始めてしまうため、湿度管理が難しい一般家庭においては薄塗りで目視で乾燥していることが分かるほうが失敗が少ないと思います。
    • 2~3回塗る→800番研磨を繰り返して、光沢感が出てくるまでやる(目安は10~15回)
  • 十分に塗れたと判断できたら、1000番→3000番(ポリッシュ)で全体を研磨した後、ネックグリップのみ薄塗りを1~2回行い、研磨せずに仕上げる
    • この工程は好みですが、いわゆるハイエンドギターの「グリップだけサテン仕上げ」ぽくなる

Freestone Guitars

Freestone Guitarsの2つのプロダクトについて

情報から汲み取れる範囲では、「Fender規格に沿ったCADモデリングデータを使って、CNCルーターで荒削りのち、フレッティングや研磨を行って出荷」というプロセスを踏んでいる。
このネックを手に入れる方法としては「Webサイトからスペックを指定してオーダー」するか、「ebay.comで入札して購入」の2通りの手段があります。

ebay.comで入札して購入

Webサイトに記載されている Lumber that does not make the cut will generally be repurposed for shop projects. が示すものがこれで、毎週金曜日の11時か12時(JST換算。サマータイムによる)に終わるオークションに週替りで10本くらい出品されます。
※格安スタートではない即決価格のアイテムもある
公式Facebookページで写真と共に告知されますが、写真に載ってるのにリストされていなかったり、その逆もあるのでebay.comを定期的にヲチるのが良さそう。

木取りは若干甘く、節が入っていたり木目に対して真っ直ぐ切られていなかったりと、公式サイトの文言を真に受けるなら「オーダー品に使わなかった木材を活用してユニークなネックを作ったよ」といったところで、選別落ちたる所以を感じる所ですが、日本への送料を含めても3万円に収まる(入札が少なければ)ので非常にリーズナブルです。
細かいスペックはまちまちですが、ギターのネックに限って言うと「ナット幅43mm、ヒール幅55.6mm(2 3/16″)、Jescarニッケルの.047″/.104″(#47104)、ヘッドストックにナットのあるトラスロッド、10mmチューナーホール、Cシェイプ」は共通していそうな感じ。グリップの厚さ(結構違う)、インレイ仕様、指板ラディアス(だいたい9.5″か12″)、指板の厚さは確認したほうが良さそう。

ナットの厚さに関してはは3.3mm~3.4mmの間くらい。ただしGraphtechのPQ-5043(3.35mm厚)がポン付けできるかというと地味に高さがあるため、よく手に入るTUSQの5043は高さが足りない。高さのある5010を買うのがベター。スロットの深さはフラットボトムで、1弦側で実寸2mm~2.5mm。モノによって若干バラつきアリ。GRAPHTECHは若干精度誤差があるので、3.3mmの製品だと若干隙間ができる可能性があるので、ESPのカーボンとかジュラコンナットや、海外の溝切り済ナット等3.4~3.5mm厚で整形されているモノを調整した方が現物合わせのリスクが低くて良いかも。

オプションとして出品されているオイル塗装($50)、ラッカー塗装($55)、フレットレベリングとエンド丸め($55)を同時購入することで仕上げてくれるみたいですがそのまま購入すると無塗装で、写真の状態で届きます。

Webサイトからスペックを指定してオーダー

Warmoth並にカスタマイズの幅が広い。公式HPにオーダーフォームがある。

  • フレットボードの厚さ
  • スケール(24.75″と27.5″コンバージョン仕様選択可)
  • ヘッドストック(オリジナルのTL、F社風のST2タイプ、MusicMan風の4:2、無加工等、カスタムも可能らしい)
  • ヒール形状(ST/TL)
  • ナット幅(42/43/44.4(インチ規格))
  • ネック材(25種類くらいある。Roasted材も選択可)
  • 指板材(ネック材と同じ選択肢。ワンピース仕様は不可なのと、バインディングは巻けない)
  • シェイプ(thin/medium/fatなC、Wizard、V等)
  • 指板ラディアス(7.5″からコンパウンドラジアスまで)
  • フレット(ebay.com見る限りJescar。ステンレスも出来る。21/22F、オーバーハングな24F選択可)
  • 指板、サイドのポジション
  • チューナーホール径(8mm/10mm等)
  • トラスロッドのアクセス箇所(ヘッド/ヒール)
  • ナット溝切り(1/8″/0フレット/フロイドローズ)

値段的にはベーシックなメイプル/ローズのネックで$190開始となるものの、柾目ローステッドメイプルが選べたり希少材(キングウッドやパタゴニアンローズ等)を+数十ドルで選べるので、モリモリ選んでもお値段的にはWarmothよりかなり安く手に入る事になる(乾燥工程や材の選定などの品質を考慮しない)。
※ブラジリアンローズやホンマホは当然買えないとはいえ、タイガーウッドとかパタゴニアンローズ等、楽器としてはマイナーな材も揃ってるので念のためワシントン条約規制対象種のリストがアップデートされていないかどうか確認したほうが良さげ

個人的な評価

中華ネックを何本も買って絶望した経験から、以下の点で製品を評価できると思います。

  • ペグのポストが正しく直線上で開けられている
  • スケールが正しく648mmで打ち込まれている(ナットのスロット含め)
  • フレットの浮きが無く、指板もRに沿ってしっかり整形してあるのでポン付けでちゃんと鳴る。エッジ処理はデフォルトでは丸め処理無しだが指が裂けるようなささくれは無く、適切に素体を容易してくれている感じ
    • ただし、タングの端カット+溝埋めのような贅沢な処理は無い。サイドは適切なサンディングと溝を木工パテで埋める程度の後処理が塗装の手前で必要
  • フレット成形時に指板のエッジをほぼ削らず、サイドスキャロップを調整しやすい
  • Jescar NS標準装備
  • トラスロッドがちゃんとネックの中心を貫いている(中華ネックはロッドの仕込みが雑)
  • エンド幅が55.56mmに限りなく近く、しっかり直角が出るように整形されている
    • 悪く言うと「Fenderのほとんどの個体は55.56mmよりやや大柄」なので、少し幅広なネックポケットの時には隙間ができる
  • CNCルーターの削り跡が若干あったり、細かいレベルの欠けや凹みはちらほらあるので売り物として転がってたら「ん?」ってなる個体が多いものの、CNCらしく歪みや不格好な箇所が無い
    • オーダー品ではなくebay.comのオークション個体を見た上での感想です(アウトレットの可能性があるため)
    • もちろん塗装で目立たなかったり、サンディングすれば解決するレベルなのですが、Warmoth等の定評のあるコンポーネントパーツに対する「安いなりの理由」がここにある

無塗装ネックの場合、指板は#800、ネックボディは#220で仕上がっているので、塗装にあたってはグリップのあたりはサンドペーパーで番手を上げながら丁寧に磨き上げる必要がある。そのまんまでも結構良いフィーリングだけど、ほんの気持ちリシェイプして好みの握りに仕上げるのもアリ。私の場合はルーターの整形跡の様な円形の削り代が若干あったモノもあった(400番で削って落とせるレベル)。
指板の両端は面取りなく、ほぼ90度でキマってる感じなので、ネックの握りの調整やサイドスキャロップの程度など、プレーンな状態で届いて好みのセッティングに仕上げていく感じはかなりやりがいがある。
トラスロッドは最初ものすごく軽いので、好意的に捉えれば「狂いが無いよう丁寧に乾燥されている」し、逆に「ロッドと木材にかかるテンションが弱い分、人によっては最初、ネックの鳴りが悪いように感じる」ような印象。
ユニークな材のネックが安価で手に入り、安心できる加工精度をもって組み込めるので、楽器と向き合うアイテムとしては最高。

購入履歴

Canarywood on Cherry

当時の出品画像から引用
木目うねうね
ネック材ワイルドチェリー(Prunus serotina)、ブラックチェリーとも
指板材カナリーウッド(Tarara Amarilla)
重さ(無塗装)1 lb. 2.5 oz(524g)
12Fの厚さ.955″
指板R9.5″
フレットJescar #47104 NS

2023年頭にオークションで初めて買ったやつ。かなり板目ってる。
まずかなりの軽量。
若干ネックグリップの木目の年輪の箇所が陥没しており、少し神経質にリシェイプする必要があった。狂いは少なくすり合わせも最小限、10-46弦を張っても順反りはほぼ無く、ネック材としてのポテンシャルがチェリー材にはあるらしい。
北米のアチコチに生えてる木で気軽に手に入るにも関わらず、あまりチェリー材を使ったギターを見ない理由が分からなくなってくる(Godinの5th Avenueとかはボディが全部チェリーだけど、やはり独特な木目が目につくので、楽器用の木材が未だ潤沢である現在において優先して使う理由がない、という所なんでしょうか…)
音はメイプルともマホガニーとも言えないやや硬質な音。立ち上がりは良いので歪ませて使う分には個性として受け取れそうな感じ。

Xotic Oil Gelを適度に薄塗りを重ねてポリッシュ無しで仕上げた。Fat Cっぽい形状ではあるものの、弦を張ったときにメイプルネックと比較して順反りするので、個体差を考慮しても軽量、かつチェリーネックの場合はネックが動きやすいことに注意したほうが良いかも。

Bubinga on Hard Maple

当時の出品画像から引用
裏がかなり節ってる
ネック材ハードメイプル(Acer sacchrum)
指板材ブビンガ(Guibourtia)
重さ(無塗装)1 lb. 5.6 oz(612g)
12Fの厚さ.927″
指板R12″
フレットJescar #47104 NS

オークション形式で購入。大きめの節があるけど12Fだからセーフ。
前回買ったチェリーネックがかなり軽かった(524g)ので、重い個体がリストされていたので購入。ブビンガもローズウッドで括られているので王道スペックと言えるかもしれない。

写真は結構コントラスト強めで実際届いてみると薄い色のブビンガで安ギターのローズ指板よりも明るい色(うっすらまだら模様の杢が見える中途半端な感じがアウトレット)。メイプルネックの着色もオイルフィニッシュで艶を出すとこれはこれでアリといった程度。
ブビンガはかなり削りにくいが、サンドペーパーの120番で磨くと何故かつやが出る。

オイルフィニッシュ後の状態。フレットの溝は隙間があるので木工パテで仕上げる。

指板は12Rでそのままだと指板の角がかなり気になるので、フレットを保護しつつ申し訳ない程度のサイドスキャロップを入れてあげる。

ナットより先はオイルフィニッシュ。指板は未塗装の状態で、この後指板に蜜蝋ワックスを塗ったらいい感じにブビンガ色になってくれた。

トラスロッドはボディ側の6角。径は4mm。ネックヒールに上から細い棒を突っ込んで回すホイールナットの変換アダプタがESPが売り出されているので装着した(ナットを5mm径から4mm径に加工するのが結構しんどかった)。

Lacewood on Cherry

当時の出品画像から引用
最初に買ったチェリーネックよりはマトモな木目
ネック材ワイルドチェリー(Prunus serotina)、ブラックチェリーとも
指板材レースウッド(European Plane)
重さ(無塗装)1 lb. 3.9 oz(564g)
12Fの厚さ.941″
指板R12″
フレットJescar #47104 NS

指板は薄いタイプ。
レースウッドはどっちが柾目なのかよくわからないのですがいわゆるアミアミではない方が指板面に出てる感じ。ネックも指板も木目がパッとしない上にヴィンテージと似つかわしくない位風合いをしているのでどのボディと合わせるか悩ましい。
600番→800番で軽く研いでXotic Oil Gel10回塗りで仕上げたけど結構深めのチップがあったのでこのへんアウトレット理由だなという感じ(演奏性に問題は無いのでヨシ)。
取り付ける個体が無いので塗装上がりでしばらく寝かせる予定。

Zebrawood on Roasted Maple

当時の出品画像から引用
ネック材ハードメイプル(Acer sacchrum)
指板材ゼブラウッド(Microberlinia brazzavillensis)
重さ(無塗装)1 lb. 4.8 oz(589g)
12Fの厚さ.939″
指板R9.5″
フレットJescar #47104 NS

指板は普通の厚さで、アヴァロンインレイ入ってる。ゼブラウッドって明暗の「明」の部分が割とイエローに近いイメージなんですがこの個体は見方によっては細い木目のパーフェローに見えなくもないような…と思って実物が届いたのを見たところ普通にゼブラウッドだった。
ローステッドメイプルは闇属性入ってる。ローステッドメイプルの色はFender等の飴色よりちょい暗い程度のものからBacchus, Harley Benton等の暗めの程度のものまで色々あるのですが、実際バッカス未満Fender以上といった感じ。

細かくて伝わらないけど触ると分かるチップ

木目は悪くなかったんですけど1箇所チップあったんでその理由でオークション行きしたんでしょうか。指板は導管がちょっと目立つ感じだけど適当にヤスって蜜蝋ワックスで整えたらいい感じに。チップに関しても裏面だし手の触れる所じゃないのでパテで盛って整形すれば全然気にならんレベル。

ドハデな見た目をしているので遠目に見たときのインパクトがデカい。